文学フリマと大交流会トークセッ​ション『震災下の文学』の感想

一言でまとめると「お祭り」でした。

6月12日、第十二回文学フリマが行なわれ、TwitterのTLでは文フリの話題で持ちきりでした。
会場にいる人は会いましょう@を飛ばしあってあらゆる場所で交流し、会場に来れない人はその様子にぼやいてしまう光景が文フリが終わるまで見られました。偏ったフォローばかりしてるとはいえ、批評関係のクラスタに属する人たちが集結しているような気分でした。

TLだけ見ているとただのオフ会のようでしたが、本を売り買いするという文フリ本来の目的も、これまで以上の盛り上がりを見せていました。
並ばずに買えるのが文フリらしさだと思っていましたが、チャリティーイベントを行った『早稲田文学』は凄い人だかりでした。チャリティーイベントは例外としても、やらおんに取り上げられるなど事前の評判が高かった『BLACK PAST』にも行列ができていました。『BLACK PAST』が売り上げた550部という数は、文フリの売り上げで過去最高だと思われます。
ちなみに、ぼくも参加させてもらった斉藤新人さんのサークルFEFの『ワールズエンド・ガーディアンズ』も好調な売れ行きで、既刊ながら午前中で売り切れてしまいました。買えなかった方は申し訳ないです。Amazonに在庫がありますので、よろしければそちらで買っていただければと思います。

ワールズエンド・ガーディアンズ
斉藤 新人 hmuraoka kei_ex
密林社


Amazonさんにピンハネされるため、ちょっと高いですが・・・。

また、著名な方も会場を訪れていました。
村上隆さんが来られたそうですが、直接拝見することはできませんでした。2箇所ほど回られてすぐに帰られたらしいです。
ですが、会場で圧倒的な存在感を放っていた東浩紀さんを拝見することはできました。ぼくが見かけたのは、東さんに関する同人誌を出して、今回『BLACK PAST』と同じぐらい注目を集めた『はじあず』のブース前で、東さんと『はじあず』の関係者の方が集まっているところでした。ぼくはそれの様子を少し離れて見物している人だかりの中に入ってTwitterでつぶやいていましたが、謎の盛り上がりが周囲に伝わっていました。

このように、これまでとは異なる雰囲気の文フリだったわけですが、最も驚いたのは大塚英志氏と市川真人氏による文学フリマ大交流会でのトークセッションでした。文学フリマ第一回開催に携わった二人が、文フリでトークセッションを行う。そのことのに衝撃を受け、予約していた高速バスをキャンセルして参加することに決めたのが、文フリの5日前でした。
ここからは会場でトークセッションを聞いて、家に帰ってからニコ生を見た感想を書いていきます。トークセッションの様子が知りたい方は以下のものも参考になると思います。

ニコ生:文学フリマ大交流会トークセッション『震災下の文学』大塚英志×市川真人(http://live.nicovideo.jp/watch/lv52642362)
Together:震災下の文学。大塚英志×市川真人(http://togetter.com/li/148678)

ちなみにぼくは大塚氏の大ファンなので、非常に偏った感想です。

文フリが終わり、一人で大交流会の会場へ。三千円を払い会場へ入るとすでにニコ生の準備がされていた。
もうすぐ放送が始まりそうだったので、トイレに行く。帰ってくるとスタッフからニコ生についての説明がされていた。ほとんど聞けなかったが、大塚氏と市川氏の前の席はニコ生にも映るので、それでいい人は座ってくれという内容だったと思われる。事前に知っていたので、ニコ生に映る席につく。
大塚氏と市川氏のすぐ前には30人から40人ほど座れる席が設けられていた。大体半分ぐらいは埋まっていた。周りにはカメラに映らない位置で聞いている人がちらほら。交流会の会場とは敷居があるわけでなく、トークセッションに興味がない人は食事が用意されたテーブルの周りに集まり談笑しているようだった。

休むまもなく、ニコ生での放送が始まる。
まずは大塚氏と市川氏のプロフィールの紹介。恐らくここに座っている人なら知っているだろう簡単な紹介の後で、大塚氏から今回の企画の説明がされる。
最近、大塚氏はニコ生を活用しており、トークセッションを行う条件としてニコ生での放送を提示した。それはトークセッションでは会場にいる人々との対話が成立しない、そもそも関心がないという情景をカメラを入れることで可視化したい意図があったようだ。
確かにカメラの映る範囲にいる人以外に、カメラから映らない範囲で聞いている人や、そもそも関心がない人がかなりの数いたので、狙いは成功したのかもしれない。大塚氏による企画のネタばらしは何度か飛び出すが、どれも面白かった。大塚氏としては文学に関係する者がネットで顔を晒すことをためらい、匿名でありつづけてどうするんだという問題意識があるようだった。

大塚氏の話を受けて、市川氏の話も始まる。30席も埋まらない現状に見通し甘さを痛感していた。
大塚氏から、自らの名前で、自らの顔で作品を売っていくのが文学フリマでなかったのかという問いが会場に投げかけられ、会場の空気は一層重くなった。Twitterでつぶやくのもためらうほど。
さらに、大塚氏がテーブルの周りで交流会をしている人達に五月蝿いとキレる。多少パフォーマンスを含んだ行為だと思うが、これは怒鳴られた人達に同情した。トークセッションには興味がないが交流会に来ていた人に、1時間半は会場使うから隅で黙っていろというのは酷だろう。文学フリマの誕生に携わったお二方の話も、十二回目にもなればもう届かないところに来ているのかもしれない。ただ、大塚氏の怒号も聞こえなかったのか、交流会側は独自に盛り上がりを見せ、トークセッションと交流会が完全に分離する奇妙な空間になりつつあった。
カメラに映らない位置で聞いていた人もいたたまれなくなったのか、途中から椅子に座る人が増えていた。

話はようやくタイトルにもある震災の話へ。大塚氏は震災によって高揚する人に違和感を感じたという。震災に遭われた人に同情するほかないが、震災をダシに動いている人への不愉快さから『atプラス08』での文芸批評を書き上げたようだ。一人の市民として、募金をし、被災地に行く事を揶揄するつもりはないが、自分の実存、自分探し、文学を結びつけるけて語ることはおかしいだろうと指摘。トークセッションのテーマにダメ出しが入る。

市川氏も同意しつつ話を始めるが、大塚氏から「だから何が言いたいの」かとバッサリ切られる。
大塚氏はかつて市川氏、そして文学から離れた理由として9・11の話を始める。9・11の時に市川氏を含め文学者達がデモに参加したことは小さなアリバイ作りに見え、実際に訴訟を起こした自分とのスタンスの違いを感じていたようだ。私とは何かを考える近代私小説的な文学と、公共的な文学を作ろうとする文学は明確に違い、震災下にぼくはどうすればいいのかなんて文学に何の関係もない。その設問自体が甘えにすぎないし自分で考えろ、とイベントそのものをぶった切る。大塚氏のちゃぶ台返しを生で見れて、痛快でした。

市川氏から大塚氏の読者として文学観はわかるが、それ以外の文学観もありもっと広く考えるべきではないかという意見がでてくる。それに対して大塚氏は、自分には具体的な実践を通した手触りしか語れないと答える。東浩紀氏、宮台真司氏、福田和也氏のような明快な理論立ては出来ないが、実践を通して理論では語りえないことを探し、それをネットを使い言葉にしていきたいと今後の活動の方針を述べる。

ここからは市川氏による大塚英志インタビューのようになってくる。
市川氏は実践がどこまで可能なのかと疑問を投げかける。大塚氏はわからないが、ぼくはバカだから、やってみるしかないと答える。今の大塚氏の教え子たちは阪神淡路大震災の被災者が多いという。震災の直後に子どもたちの心のケアをどうするかとかつて言われたが、それは彼らがどんな言葉を作っていくかを教育していることに繋がっている。でも、それすらも偶然であり、別に神戸だからと動いたわけではない。目の前の人と対話していくしかないという大塚氏のスタンスが語られていた。

ここから文壇の話へ。
市川氏は大塚氏なら文壇の空気を無視して実践的な行動が取れたのではないかと話を振る。大塚氏から論壇にいるとやはり空気を気にしてしまう、3、4日前から喧嘩売るぞと気合入れていかないと対談で喧嘩売れないという発言が飛び出す。あれだけ暴れまわっている印象が強かった大塚氏がそれほどの覚悟を持っていたとは意外だった。
また、公的な言葉は必要だが、個人の言葉もまた必要であるという意見には、個人の言葉と公共的な言葉は対立しないと答える。個人の言葉から公共的な言葉を作っていく。それは憲法前文を自分たちで書こうと言ったことやドワンゴのニコ生で行った絵本も作りでも実践していたとこれまでについて振り返った。

再び震災の話へ。
『atプラス08』に掲載された『「戦後」文学論 高揚と喪失』の話に入るが、当日は読んでいなかったため、後日買って読みました。大塚氏はネットで見つけた文章を紹介する。高揚感を感じて西に逃げたが、何も起こらなかったことの気持ちをある戦後小説を引用することで表現した書き込みだった。その文章に個人の中で立ち上がった文学性を見出して、ネットでの文章を見直すきっかけとなったという。
このエピソードを聞いて「西に逃げた」から東浩紀氏を連想しましたが、実は違いました。Togetterを見るとぼく以外にも勘違いした人はいたようです。ぼくのつぶやきは完全に間違いでした。すいません。
大塚氏の言っていた書き込みは以下のものです。

峠は越したようだな。 今、関西にいる。
逃げたんだけどな。
無事に済めば、無駄逃げになればそれに越したことはないと思っていたが、実際無事にすみそうだとなると、なんかつまらなくなってきた。ホッとしたって気持ちがはない。
日本が終わるかも、少なくとも東日本は滅ぶかもと、ワナワナしてたあの高揚感はどうしてくれるんだ?
坂口安吾終戦時に、ここで止めちまうのかよ、ふざけんな、とことんやるんじゃなかったのかよと激怒した気持ちがわかった気がするな。

しばらく呆けてしまうかもしれない。
http://toki.2ch.net/test/read.cgi/alone/1300194639/114

大塚氏からまた一つネタばらしが飛び出す。今回の話を受ける条件として市川氏がニュートラルな立場で話さないことがあったようだ。市川氏はこの条件からか非常にしゃべりにくそうだった。

ここからしばらくは文学の話が続いた。
まず、村上春樹と震災の話。文フリの数日前にあった村上春樹氏がカタルーニャ国際賞を受賞した際のスピーチの内容についてだった。
「核に『ノー』を叫び続けるべきだった」村上春樹さん カタルーニャ国際賞受賞
大塚氏は村上春樹の文学は文学と政治を切り離してきた、その村上春樹が今になって政治的な発言をするのは火事場泥棒じゃないかと批判的だった。
なぜアフガニスタンの時に動かなくて今動くのか。単純に想像力がない。文学者とはそういう想像力が働く人じゃないのか。
話は広義の文学の話に広がっていく。作家の想像力は作品に反映される。ライトノベルは神戸の震災以降の文学。清涼院流水氏がなぜ何百の密室で人を殺さなければならなかったのか。『バトル・ロワイアル』ではなぜ同級生を殺すのか。阪神淡路大震災で実家が全壊した清涼院流水氏と神戸出身の新聞記者であった『バトル・ロワイアル』の作者、高見広春氏。被災者を癒すエンターテイメントではない形で作られた2つの作品のように、今回の震災を受け止め、それでも受け止めきれない物を形にした作品がいずれ出てくる。

市川氏は大塚氏の村上春樹の評価に反論する。村上春樹の評価の低さは大塚氏の文学への期待値の高さの裏返しであると指摘。大塚氏は文学者が偉いっていてるじゃんといつもの通りの反論。市川氏はぼくはいってませんよと苦笑いするが、早稲田文学をバックボーンにつかっていることをつつかれる。ここからは市川氏が大塚氏に説教される展開になる。

話も終盤になり、文学フリマの話題になる。
市川氏は同人誌、ミニコミは甘えだと切る。これまでは既存のメディアの権威性を否定するためにも支持をしてきたが、そこに留まる限りは甘えにしかならない。大塚氏はそれを言ったら早稲田文学も甘えだと反論。自分の金でメディア作っているならミニコミ紙を笑うのもいいが、早稲田の金で担保されてミニコミを批判するのはフェアじゃない。また、すべての人はメディアを持っていい。近代は自らの言葉で考え表現していく時代だったが、それを公にできるのは一部の人々だった。ネットを批判しながらの可能性を見出していたのはそこだったと言う。文学フリマに苦言を呈するなら、代表が望月氏のまま変わらないことと、東京以外でのイベントがほとんど行われないこと。しかし、引き継いだからにはそれすらも何かいう立場にないとのこと。この辺りはプロレスやろうといいながら、指折りにいく大塚英志(本人談)の本領発揮だった。市川氏からも大塚氏のプロレス技に掛かってしまったとギブアップ気味の発言があった。

最後は責任の取り方について。
大塚氏はやってしまったことは仕方ない、そこからどう責任を取っていくかだという。やったことの責任は取る。震災を受けて小説を書く人はどこかに出てきてしまう。それは小説の形でないかもしれないし、文フリの外にあると思う。批評に可能性があるとすればそれを見つけることではないかと考えていた。
また、大塚氏から文芸批評への復帰も宣言された。それは今までのものとは違う形かもしれない。atプラス08での文芸批評は高揚感から始めたことかもしれないんが、始めたからには責任を取るしかないとのこと。市川氏も何か自分で書くことになると宣言。大塚氏は市川氏に期待をしていると最後にデレて終わった。

とても交流会の中で行なわれたイベントだと思えないほどの重苦しい空気が漂っていましたが、トークセッションは大変面白いものでした。大塚ファンとしては、ニコ生などのネットの活用と文芸批評への復帰がこれからの楽しみです。
感想としては無駄に長くなってしまいました。ここまで読んでいる人がいたのなら、ありがとうございます。


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